James Booker の地を訪ねて〜part 1

Maple Leaf Bar

メープル・リーフ・バー

 薄暗く細長いバーの奥に、ピアノが置いてある。これがジェームス・ブッカーの弾いたピアノだろうか?バーで働くお兄さんに聞くと、
「もちろん、そうだよ!」
 という答えが返ってきた。かなり古い、ぼろぼろのアップライト。このピアノで、ブッカーはさまざまな魔法を見せてくれたのだ。早い時間で、まだ演奏は始まっていなかったので、流れている音楽と雑音に紛れて、鍵盤をそっと触ってみる。表面が剥がれて木がむき出しになっているキーがあったり、ところどころ音が出なかったり、相当使い込まれた跡が見える。お疲れ様、と言って蓋を閉めた。

 ジン・アンド・トニックを頼んだら、これがものすごく強くて甘い。なんだ、これ。ほんとにジン・トニック?グラスの半分はジンなのではないかというくらい強いし、トニックは味も香りも無くて、やたらに甘いだけである。この日、演奏していたのは、オープニングの後、Walter "Wolfman" Washington。客席には Clarence "Gatemouth" Brown の顔もあった。さすがニューオリンズである。

 Tipitina's は、フレンチ・クォーターへ支店を出したり、店内でTシャツを売っていたり、観光客相手のコマーシャリズムに走ってしまった感が強いが、メープル・リーフ・バーには、そんな傾向は見当たらなくて、とてもうれしい。ブッカーの弾いたピアノはまだ残っているが、他に置く場所がないからとりあえずここへ置いておこう、とでもいうように、押しやられたように置かれただけであるし、おまけにキャメルの大きな看板が載っている。粗大ゴミのように見えなくもない。"1983 James Booker" とサインされた "Classified" のLPも、無造作にトイレの横の壁に飾られているだけである。このやる気のなさはどうだ。素晴らしいではないか。というより、ジェームス・ブッカーではどうしようもないのか。少しずつその真価を認められつつあるとはいえ、まだまだ有名とは程遠い人である。何年後か何十年後か、ブッカーが世界的に知られるような時が来たら、ピアノは「ジェームス・ブッカーの弾いたピアノ」と標されてショウケースに入れられ、LPは金縁の額にでも入れられたりするのだろうか。かえでのマーク入りのメープル・リーフ・バーTシャツを売ったりするのだろうか。バーの外の歩道には、"James Booker" と彫られた金属のプレートが埋め込まれ、下からライトアップされたりするのだろうか。そんなの嫌である。メープル・リーフ・バーには、営利主義などには無頓着な、まずいジン・トニックを出す、薄汚れたバーであってほしいと切に願う。




  in front of the Maple Leaf Bar



worshipping the piano which James Booker used to play



the sidewalk in front of Tipitina's






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