James Booker の地を訪ねて〜part 2

Providence Memorial Park

プロヴィデンス・メモリアル・パーク

 今回のニューオリンズへの旅で、どうしても訪ねたかった場所のひとつが、この "Providence Memorial Park" である。賑やかな葬式が有名なニューオリンズであるが、ジェームス・ブッカーは、とても寂しい葬式の後、ここへ納められた。この墓地についての情報を探していて、"Find a grave" というサイトを見つけたのだが、これがまた良くできたサイトで、アメリカはもちろん、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、アジア各地にある有名人の墓を、故人の名前から、墓の所在地から、誕生日と命日からなど、様々な方法で検索できるようになっている。目的の墓のページを見つけたら、花やメッセージを添えて、「ヴァーチャルお墓参り」 をすることもできる。インターネット、恐るべし、である。

 タクシーに乗って
 「Providence Memorial Park, Metairie」
 と告げると、ドライバーのおじさんは
 「Metairieの墓地って二つあるんだよ。近い方?遠い方?」
 と言うではないか。私が持って来た情報はこれだけである。事前に地図もプリントアウトしたのだが、タクシーで行くことに決めたので、ホテルに置いてきてしまった。だって、目的地を告げたら連れて行ってくれるのが、タクシーというものではないのか? 仕方なく、とりあえず、近い方の墓地へ行ってもらうことにした。
 到着した墓地はかなり広くて、ここから一つのお墓を探し出すのは一日かかっても無理のように見える。管理人のおじさんに、"Find a grave" からプリントアウトしたジェームス・ブッカーのページを見せて、訊いてみる。すると、おじさんは
 「これは、この墓地じゃないよ。ほら、"Providence Memorial Park" って書いてあるだろ?ここは Metairie Cemetery だよ。Providence Memorial Park までは、エアポート・ドライブをまっすぐ行かなくちゃ」
 と言うではないか。何ということだ。「Providenvce Memorial Park」 と言ったのに、Metairie Cemetery に連れて来られてしまった。繰り返すが、目的地を告げたら連れて行ってくれるのが、タクシーというものではないのか?
 しかも、タクシーはもう去って、墓地に置き去りである。しまった、確かめるまで待っていてもらうんだった、と後悔しても遅いので、電話を借りてタクシー会社に連絡する。連絡は取れたが、10分、20分、と待ってもタクシーは来ない。本当に来るのだろうか?と不安になった頃、来た!タクシーだ!
 「Providenvce Memorial Park, Metairie」
 と再び言って、今回は管理人のおじさんに訊いた道順も伝えるが、今度のドライバーもなんだか自信なさげである。大丈夫か?

 エアポート・ドライブを走って数分、
 「僕が知ってるのはここだけだよ」
 と言って、ある墓地へ車を乗り入れた。タクシーに待ってもらって、管理人に訊きに行く。墓地に置き去りは、もうこりごりである。しかし、なんとここも、目的の場所とは違ったのである。この墓地は Lake Lawn Metairie で、Providenvce Memorial Park までは、エアポート・ドライブをもう少し先に行かなくてはならないのだそうだ。しつこいようだが、目的地を告げたら連れて行ってくれるのが、タクシーというものではないのか?もしその場所を知らなかったら、地図で確かめるとか、無線で連絡をして訊くとかするべきではないのか?

 そして、またエアポート・ドライブをしばらく行くと、見えた。"Providenvce Memorial Park" と、でかでかと書いてある。考えてみれば、先に連れて行かれた Metairie Cemetery も、Lake Lawn も、名前からして違うではないか。タクシードライバーは、自分の知っている墓地に私を連れて行っただけなのである。そんなの、タクシーの意味がないではないか。簡単に行き着けることを見込んでタクシーを利用したのであるが、こんなことなら始めからバスを使った方が、早くて安上がりだったのである。帰りは墓地の前からバスに乗ったが、その運賃がタクシーに費やした分のぴったり十分の一だったことも、今となっては笑い話である。

 しかし、とにかく、たどり着いたのである。日曜のせいか、もともといないのか、管理人の姿は見えず、オフィスも閉まっている。でもここはそれほど広い墓地ではないので、"Find a grave" で見つけた写真を頼りに、なんとか探し出せそうである。しかし始めてみると、これがなかなか大変であった。ようやくそれらしき一角を見つけたのだが、ジェームス・ブッカーの名前は見当たらない。写真と照らし合わせて見ると、どう見てもこの一角のひとつであるが、写真ではどれがブッカーのお墓なのか小さくてわからない。どこかへ移動されてしまったのか。ほとんどあきらめかけて見上げたところに、あった!他の名前と一緒になっていたので、気づかなかったのである。私は、それぞれの墓の一番上にある名前だけを見て探していたのであった。Champagne という名前の下に、"James Carroll Booker III , 1939−1983, The Piano Prince" とある。
 しかし、Champagne、誰だか知らないが、ジェームス・ブッカーとお墓をシェアするなんて、何とも幸運な人である。などと思うのは私ぐらいか。

 お墓の前の芝生に座ってブッカーのお墓を見ていると、じんわりと涙がわいてくる。誰かが残したウイスキーの瓶と花が涙でにじむ。私は、彼のために、ビールと蝋燭を持参した。出掛けに入ったコンビニエンス・ストアで見つけたのは、誕生日用のピンクや青や黄の蝋燭で、それはお墓参りにはふさわしくなく、何かのお祝い事のようであったけれども、この色とりどりに並んだ蝋燭は、きっとブッカーの気に入るだろうと、私は思った。




James Booker's grave
Rest in Peace





<< 前の旅行記へ



ニューオリンズ旅行記
メニューに戻る
次の旅行記へ >>