ジェームス・ブッカーは、素晴らしいピアニストであったと同時に、"great talker" であった。彼は、独自の哲学や人生観や格言を (またはどうしようもなくくだらないことを) 曲と曲の間に、或いは曲の合間にピアノを弾きながら、聴衆に語った。そして、その語りと音楽が相互に作用してもたらす効果こそが、ブッカーのパフォーマンスの醍醐味であった。残念ながら (ディープなブッカーファンにとってはということだけれど。)、現在聴くことができるその 「語り」 は、わずかしかない。
他のライブアルバムではほとんどきれいに編集されているが、この "A Taste of Honey" には、ブッカーの 「語り」 が比較的多く残っている。中でも、CD1に入っている "Classified" はかなりエキセントリックである。ここでブッカーは、ピアノを弾きながら喋りまくる。愛と憎しみについて、ニクソンとウォーターゲイトについて、バイセクシュアリティーについて、ホモセクシュアリティーについて。弾いているピアノと全く違う曲 (What the World Needs Now Is Love) を歌ったりもする。そしてそれが、およそ10分も続く。この延々と続く喋りまくりこそが、この曲のコンセプト (singing too much blues) であり、短くては意味がないわけだけれど、それにしても、マニアックなファン以外にとっては、これは拷問に近いかもしれない。
ヨーロッパでのライブ録音を聴くと、ニューオリンズ以外の街では、ここまで奇抜なパフォーマンスをブッカーはしなかったのではないかという気がする。住み慣れた街の、なじみのバーで、陽気であたたかな人々を相手にしてこそ生まれた演奏に聴こえるのだ。彼がいつもこの地に舞い戻って来た理由のひとつは、そんな所に拠るのかもしれない。
録音の質は、お世辞にも良いとは言えない。むしろ、かなりひどい。しかし、ピアノの椅子のきしみまで聴こえるこの録音は、ある意味で非常に貴重である。聴衆のざわめきと、熱狂と、ブッカーのクレイジーなパフォーマンス。1977年のニューオリンズで繰り広げられた熱く長い夜が、手に取るように感じられる。
|