明るく、陽気で、楽しいビッグ・イージー。しかしその反面、犯罪が多い街であるのも事実。出発前に、ニューオリンズの治安について書かれたものをいくつか読んだが、その中で興味深かったのが、
「脅されても、絶対に車には乗らないこと」
というものである。これは英語のサイトで読んだのだが、金を盗られるにしても、レイプされるにしても、殺されるにしても、連れて行かれた場所でされるよりも、その場でされる方がまだましなはずだ、というものである。私はこれを読んで、とても感心した。銃なんか突きつけられて脅されたら、あほな私は、
「命ばかりはお助を〜」
ってな感じで、ついつい車に乗ってしまいそうである。しかし確かに、車に乗らなかったら、運がよければその場で金を取られるだけで済むかもしれない。最悪の場合でも、ばきゅんとやられるだけで済むかもしれない。しかし、車に乗せられ、どこかへ連れて行かれたら、もっと悪い状況になる可能性は、明らかに高い。
夜、フレンチ・クォーター以外の場所へ行くときは、必ずタクシーを使うこと、というのはどの文献にもある。おしゃべり好きなタクシードライバーのお兄さんは、
「フレンチ・クォーターは大丈夫だけれど、それ以外は、夜は絶対に歩いちゃだめだよ。考えてもみなよ、夜道を歩いているのが君だけだとする。他に誰がターゲットになるっていうんだい?」
と言っていた。もっともである。しかし、ニューオリンズを発つ日の朝、荷物をまとめながらテレビを見ていたら、バーボン・ストリートで女性が車に押しこめられ、連れ去られた、というニュースがあった。つい前の晩のことである。私は、自分の耳を疑った。バーボン・ストリートである。フレンチ・クォーターの中で最も人通りの多い、あのバーボン・ストリートである。どこでも安心はできないものである。
ところで私は、あのバーボン・ストリートの馬鹿騒ぎが好きになれなくて、アップ・タウンへ音楽を聴きに行かない夜は、バーボン・ストリート以外のフレンチ・クォーター近辺で過ごした。危険な目には遭わなかったが、賑やかな通りから少し離れると驚くほど人通りが少なくなって、やはり少し不安にはなった。フレンチメン・ストリートやリバー・フロントは厳密に言えばフレンチ・クォーターではないが、周りに人がいる限り大丈夫という感じである。他のアメリカの街と同様、ニューオリンズも、一角曲がればがらっと雰囲気が変わることもある。大切なのは、いつも周りの状況に注意して、ちょっとやばいかな、という時は、すみやかに引き返すことである。
"donut?"
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