ジェームス・ブッカーの演奏における数多くの美点のひとつは、彼が卓越したテクニックを持っていたにもかかわらず、決して技巧のみに走らなかったことである。ブッカーはいつも、ピアノを通して感情を表現するということを忘れなかった。それがどんなに速いパッセージであれ、ひとつひとつの音を心の中でしっかりと歌った。だからこそ、ブッカーが弾くと、ピアノは、時には太陽の下でにっこりと微笑み、時には孤独にすすり泣き、ある時は見果てぬ夢を語り、また別の時は魂を切り裂くような叫びを上げたのである。
"Spiders on the Keys" と "Resurrection of the Bayou Maharajah" は、双子のようなものである。どちらも1977年から1983年にかけて、メープル・リーフ・バーで録音されたものであるが、"Spiders on the Keys" には、ヴォーカルなしのピアノ曲のみが編集されている。このアルバムでのブッカーは、彼自身の声帯を通してではなく、ピアノを通して聴衆に語りかけている。腕の良いピアニストが触れると、ピアノはピアニストと一心同体となるのだ。
ピアノというのは素晴らしい楽器だが、それ自身は一人では何もできない。ただ無口に座って、自分の魅力を引き出してくれる誰かを待ち続けるだけだ。ピアノに生命を吹き込むのは、ピアニストのつとめなのである。そして、ジェームス・ブッカーは、ピアノの特質を最大限に活かしたピアニストであった。
メープル・リーフ・バーの片隅には今でも、ジェームス・ブッカーの弾いたピアノが置いてある。古いぼろぼろのアップライトは、おそらくもう使われることはないだろうけれど、アイパッチとウィッグとローブに身を包んだピアニストと共有した時を、心から楽しんだに違いない。
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