ニューオリンズは大変美しい街であるが、このバーボン・ストリートだけは例外である。観光客がここぞとばかりに酔っぱらって大騒ぎの、クレイジーな通りである。至る所でげろの臭いがする。私はお酒を味わうのも、お酒を飲んで気分良くなるのも好きだが、大騒ぎをするためにお酒を飲んだことは、一度もない。なぜ酔っ払いというのは集団で騒ぐのか。ライブやミュージック・フェスティバルで感じる一体感なら私も好きだが、酔っぱらい同士の連帯感なんて嫌である。しかも、「旅の恥は書き捨て」 という感じに騒いでいて、不快である。
生演奏をしているバーがたくさんあり、それだけがこのバーボン・ストリートの救いであるのだが、中にはカラオケ・バーなんかもあって、しかも生バンドの入っているバーよりも盛り上がっていたりするから、悲しい。ここは、音楽の街、ニューオリンズではなかったのか?と思わず叫びそうになる。というか、叫んだ。バンドの演奏の質は、さすがニューオリンズだけあってかなりレベルが高いが、ソロのピアノ弾きの演奏は、誰でも弾けるようなものばかりであった。私は、ニューオリンズでは、たとえバーボン・ストリートであろうと、とんでもなく上手いピアニストがごろごろしていて、ファンキーなニューオリンズ・ピアノを至る所で聴かせてくれるものだとばかり思っていたのである。
一度だけ、かなり私好みのピアニストを見たが、彼はソロではなく、ど迫力のシスターがボーカルのバンドで演奏していた。ノー・チャージだというので、普段は興味本位に通り過ぎるだけのバーボン・ストリートで、初めてバーへ入ることにした。こんなに良いバンドが演奏しているというのに、あまり人がいない。不思議に思いつつ飲み物をオーダーして、理由が判明した。高いのである。パイナップル・ジュースが5ドルもする。入った時は気がつかなかったが、よく見ると、壁に飲み物の値段が書いてある。今さら、文句は言えないというわけである。これなら入口でチャージしてくれた方が、気分良く楽しめるというものだ。すっかり騙された気分である。バーボン・ストリートで遊び慣れている人は、バーへ入る前に、飲み物の値段をチェックしたりするのであろうか。店の前で従業員が 「ノー・チャージ」 という看板を持って客引きをしているのをよく見かたが、これはそういうことだったである。ファンキーな音楽が聴きたくて入ったのであるが、心から楽しめずに店を出てしまった。私がバーボン・ストリートでバーへ入ったのは、これが最初で最後である。
It's a pretty street when it's quiet
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