James Booker

King of the New Orleans Keyboad


Junco Partner CDs JP1
rec. Hamburg, Germany, 1977


  1. How Do You Feel
  2. Classified
  3. One Hell of a Nerve
  4. Blues Rhapsody
  5. Rockin' Pneumonia
  6. Please Send Me Someone to Love
  7. All By Myself
  8. Ain't Nobody's Business
  9. Something You Got
  10. Harlem in Hamburg
  11. Put Out the Light
  12. Ray Charles Medley
  13. Tipitina-Loberta
  14. Junco Partner
  15. Down in the River
  16. Black Night
  17. Goodnight Sweetheart
  18. Lonely Avenue

 「ピアノは指ではなく、心で弾くものだ」 と言った人がいる。クラシック音楽界の天才ピアニスト、グレン・グールドである。
 ジェームス・ブッカーのピアノを聴くと、いつも、このグールドの言葉を思い出す。そして、本当のテクニシャンとは何か、と改めて考え直すことになる。

 多くのブギウギ・ピアニストやブルース・ピアニストが用いたピアノ奏法として、”打楽器的”奏法というのがある。その名の通り、打楽器のように鍵盤をぶったたいて音をだす奏法で、ノリのいいブギウギや、ごりごりしたブルースには欠かせない、ブルース・ピアノの主流とも言える。ジェームス・ブッカーのピアノの弾き方は、この 「ぶったたき奏法」 とは対極にある、「脱力奏法」 である。これは、クラシック音楽 - 特にショパンなどのロマン派 - を弾く時に用いられるテクニックで、ブッカーの音楽がオリジナルに響く原因のひとつは、彼がこのクラシック音楽のテクニックでブルースを弾いたところにある。

 どんなに強い音を出す時でも、ブッカーは決して鍵盤を叩いたりしない。"How Do You Feel" や "One Hell of a Nerve" などで聴かせる、ずっしりと重く、しかしシャープで歯切れのよい和音は、力まかせで出る音ではない。そして、バラードで見せる表現力もまた、脱力のたまものである。このアルバムでは、"Please Send Me Someone to Love" が特にすばらしい。ブッカーが弾くとピアノは、時にやさしく切なく、時にきらびやかで哀しく、時に気だるいため息のように響く。音楽が言葉だと感じるのは、こういう時だ。

 テクニック的なことをもう少し述べるなら、”脱力” といっても、各指の第三関節のあたりを中心とした手のひらの支えと、指先はしっかりしていなければならない。ここを勘違いすると、指は鍵盤をなでるばかりで、ブッカーのような芯のあるクリスプな音にはならない。そして、良い音を出すために何よりも大切なことは、弾いている全ての音を、胸の内でしっかりと歌うことである。

 幼い頃からクラシック音楽の教育を受けたブッカーは、超絶技巧のピアニストとして語られることが多い。しかし、ここで、冒頭の疑問に突き当たる。本当のテクニシャンとは何か。難曲を間違いなく軽々と弾いてのけることであるなら、なるほど、ブッカーはテクニシャンである。しかし、ブッカーの音楽の魅力は、それを更に超えたところにある。
 ブッカーは、体得したテクニックを巧みに用いて、感情を自由自在に表現した。彼の演奏において、テクニックは最終目的ではなく、表現の手段でしかない。本当のテクニシャンとは、心のおもむくままに、楽器を操ることのできる人のことではないかと思う。ちょうど、グレン・グールドがそうだったように。



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